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2012年11月23日金曜日

宇宙空間の炎 その奇怪な様子

 

 

重力ゼロにおける燃焼実験の驚くべき結果

By Ker Than - Smithsonian magazine, December 2012

宇宙での炎の擬似カラー合成画像。明るい黄色は燃料の滴の軌跡。燃えると圧縮され緑の煤煙を残す。





ISS国際宇宙ステーションで行われた最近の実験で、宇宙空間の炎は地上の炎よりも予測しにくく、より危険なものであることがわかった。「実験をしていると」と航空宇宙エンジニアのダン・ディートリッヒは語る。「そんなことはあり得ないってことが目の前で起きるんだ」


炎が私たちにとっていまだに驚異的な存在である、この事実こそ驚くべきことだ。なぜなら燃焼という現象は人類にとって最古の化学実験であり、しかも酸素・熱・燃料といった3つの基本要素しかないからだ。


地球上で炎が燃える様子をみてみよう。燃焼が起こると周囲の空気は温まって膨張し、密度が低くなる。重力によって、温度がより低く密度がより高い空気が炎の基の方に引き下げられる。これとは逆に、温かい空気は追いやられて上昇する。この対流により新鮮な酸素が炎に供給され、燃料が尽きるまで燃え続ける。炎のティアドロップ型の形と揺らめきは、上昇する空気によってもたらされている。


しかし宇宙空間では、重力が固体や液体、気体にじゅうぶん働かないために奇妙な現象が起きる。無重力状態では温められた空気は膨張するが上昇はしない。炎は酸素の拡散により持続する。というのも酸素分子がランダムに炎に流れ込むからだ。上昇気流がないために、微小な重力状態における炎はドーム形状または球状になり、酸素がわずかしかないので不活発でのろのろしている。「無重力空間で紙に火をつけると、炎は紙の端から端にゆっくり這っていくよ」とディートリヒは言う。「宇宙空間の火はほんとうに奇妙だよ。宇宙飛行士はめちゃくちゃ興奮しながら実験してるんだ」


気まぐれな性格の地上の炎に慣れ親しんでいる私たちにとって、宇宙の炎は不気味に静かだ。でも宇宙の炎は少ない酸素でより長く燃え続けることができるので、より粘り強い性格の持ち主だということができる。


NASAは応用試験を実施している。科学者はどの素材が宇宙で燃えやすく、したがって使用を避けるべきなのかを研究したいと考えている。実験によれば、宇宙ステーションにあるガスを吹きつけるタイプの消化器は、地上でよりも効果が少ないということだ。これは空気(と酸素)を炎に送ることで燃料を供給してしまっているためだ。

球状の物とフラットな物で炎が拡がる様子を比較する実験などを通じて得られたデータは、地上での炎と燃料の振る舞いについて理解を深める助けになるだろう。私たちが地上で利用するエネルギーの75%は物を燃やすという形態に由来している。


とくにNASAの科学者が興奮しているのは、今年の春に宇宙で観察された燃焼の、応用の可能性である。これは初めて発見された類例のないタイプの燃焼で、ある種の液体燃料を点火すると、炎が消えたあとも燃え続けるのである。この液体燃料の燃焼は2段階方式。第1の火は目に見える炎となって燃え、やがて消える。そして少し経つと燃料は「冷たい炎」として再び燃え始める。これは裸眼では見ることができない低温燃焼である。


科学者はこの現象をまだ説明できない。しかしエンジニアは、もしこの化学プロセスが地上で再現されるなら、大気汚染が少ない低温燃焼のディーゼルエンジンの開発に結びつくだろうと話している。


NASAの研究員ポール・ファーカルは、微小重力環境での実験は「よりファンダメンタルな視点で」炎に潜む力学を研究することができる貴重な体験だと述べている。地上における燃焼のプロセスは「重力によって隠されている。少なくとも複雑化されている」のである。




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訳註


元記事)
In Space, Flames Behave in Ways Nobody Thought Possible
http://www.smithsonianmag.com/science-nature/In-Space-Flames-Behave-in-Ways-Nobody-Thought-Possible-179731321.html#

人名)
ダン・ディートリッヒ - Dan Dietrich
ポール・ファーカル - Paul Ferkul

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