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2012年11月22日木曜日

なぜイギリス人の歌手はアメリカ風に歌うのか?





悪いのはビートルズ。

By L.V. Anderson | Posted Monday, Nov. 19, 2012, at 5:59 PM ET




最新のボンド映画「スカイフォール」でイギリス人シンガー、アデルが同名の曲を歌っている。ひどいロンドン訛りでしゃべるくせに、歌っている時の声はイギリス人というよりもアメリカ人だ。なぜイギリスのボーカリストたちはかくもアメリカ風に歌うのか?


それはロックやポップのミュージシャンはそうあるべきだとみんなが思うからだ。1960年代にクリフ・リチャードやビートルズ、ローリング・ストーンズがレコーディングを始めた頃から、イギリスのポップシンガーはアメリカ式の発音を真似してきた。イギリスの多くのミュージシャンは「アフリカ系アメリカ人の母音の発音」に影響を受けており、これは黒人ブルースや、チャック・ベリーのようなロックンローラーによるものだ。しかしこの似非アメリカ式発音、たいていはアメリカ各地の様々な方言の寄せ集めといった感じだ。イギリス人がアメリカ式発音を真似る際には母音と"R"の発音を借用している。つまり単語の中に"R"がくると必ず発音しているのだ(これとは反対に、イングランドの方言では音節の最後に置かれた"R"は省略することが多い)。ときにイギリス人は、アメリカ風に歌おうとすると"R"をやりすぎてしまうことがある。'Till there was you'を歌うポール・マッカートニーがいい例だ。この曲では"saw"が"sawr"に聞こえてしまう。



言語学者のピーター・トラジルはブリティッシュ・ロックにおける"R"の発音について長年にわたって調査してきた。そしてビートルズの"R"の発音が、英国と米国両方の発音の特徴を取り入れたトランス−アトランティックサウンドが1960年代を通じて当たり前になっていくのにしたがって減少していることを発見した。新しいジャンルが発展するとトレンドも逆方向を進んでいく。グリーンデイのビリー・ジョー・アームストロングのようなアメリカン・ポップパンクのボーカリストは、むしろその産みの親であるクラッシュのジョー・ストラマーに近いイギリス風のアクセントを採用している。現代の歌手はジャンルによっていろいろな発音を取り入れている。たとえばオーストラリア人であるキース・アーバンは、アメリカ南部の特徴的なアクセントでカントリーを歌っている。最近の研究では「ニュージーランドのポップシンガーにおけるデフォルトのアクセント」は彼らが意図をせずともアメリカの母音を利用していることを示唆している。これは現代の歌手が米国のポップシンガーやそのイミテーションを聴いて育ったせいかもしれない。


歌手がジャンルにあわせてボーカルスタイルを真似しようとしなくても、「方言は音楽において消えてゆく」傾向にある。イントネーションはメロディに、母音の長さは音の長さに、そして声の拍子は曲のリズムにすり替えられていく。歌う時のアクセントに関しては、母音と"R"の発音がより重要になっている。




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訳註


元記事)
Why Do British Singers Sound American?
http://www.slate.com/articles/arts/explainer/2012/11/skyfall_theme_song_by_adele_why_do_british_singers_sound_american.html


関連リンク)
「アフリカ系アメリカ人の母音の発音」
http://linguistlist.org/topics/ebonics/
「ニュージーランドのポップシンガーにおけるデフォルトのアクセント」
http://aut.researchgateway.ac.nz/bitstream/handle/10292/962/GibsonA.pdf?sequence=26
「音楽において方言は消えゆく」
http://david-crystal.blogspot.com/2009/11/on-singing-accents.html


人名)
ピーター・トラジル - Peter Trudgill
http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Trudgill

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